エベレスト頂上

安全管理

■登山者検診ネットワーク(事前健康診断)
 経験あるツアーリーダーが同行していれば、高山病は恐れることはない。高山病のメカニズムは完全には解明されてはいないが、対処法は確立されているからだ。怖いのは「突然死」である。「突然死」とは「発症から24時間以内の予期しない内因性死亡」と定義されており、日本人では1000人に0.5〜1.0人が突然死している。年間5000人の日本人が海外の山の高所にでかけていると推測され、事実、年間数名が突然死している。日本での登山、ハイキング中の突然死の約8割が心臓関係であり、心筋梗塞がほとんどである。その3分の2は重症の不整脈(心室細動)で死亡しているそうだ。都会であれば救急車で運べば7割は救命できるといわれているが、海外の山や辺境の地では通信、輸送手段が限られており、救命率はかなり下がる。心筋梗塞の危険因子は、高脂血症、高血圧、糖尿病、高尿酸血症、肥満、喫煙であり、さらにリスクを増加させる因子としては、過労、睡眠不足、脱水、アルコール、コーヒー、ストレスがあげられるという。海外の高所での突然死の要因は、心臓関係や脳血管疾患だけでなく、肺塞栓症など国内より多様性があるのではないかと指摘する専門医もいる。  まずは己の体を知ること。事前の健康診断は必須である。そこで、日本登山医学会の堀井昌子先生が中心となり、海外トレッキングに出かける方を対象に登山医学専門医が共通の検診を行い、高山という特殊環境を考慮してアドバイスするという「登山者検診ネットワーク」が設立された。本格的な実施を前に2006年から一年間、都内の医療機関でパイロットスタディーが実施された。  事前の健康診断は必ずしも確実とは言えないが、登山者の高齢化にともなう突然死の対策の始まりである。
参考文献:「登山医学入門」増山茂著 山と渓谷社刊

■高山病とは
 高所での適応性とは生まれ持った体質によるものらしい。遺伝子レベルの話で、そのメカニズムが解明されるのはかなり先のことであろう。頚動脈のところに酸素センサーがあり、その器官が低酸素に反応して換気を増やすという説もある。現代人はすでにその機能が退化しており、換気量も増えずに低酸素による障害がでてくるというのだ。高所に強いということは原始人なのだろうか。しかし、たとえ先天的に弱い人でも高所トレッキングや登山をあきらめることはない。まずは事前の健康診断。己の弱点を知ること。専門医と相談し、慢性的な疾患や不安な疾患を抱える場合は、低酸素環境がその疾患に与える影響、そして症状が悪化した場合の対応などを主治医とよく相談しておくのが重要だ。十分な高所馴化を考慮した日程も望ましい。  次に現地では胸ではなく腹を使った呼吸にする。鼻から空気を吸い、口をすぼめて吐く。吸ったときに腹が膨らむので、胸を膨らますより換気量は増えるのだ。寝ているときには意識的な呼吸ができないが、起きている間だけでも腹式呼吸に努めること。過去に高所で苦しんだ人には、呼吸中枢を刺激するダイアモックスという薬も効果がある。原則的には必要ないが、自分が高所に弱い体質であったり、キリマンジャロや飛行機でチベットのラサに上がるときなど、急激に高度を上げなければならないときには有効である。 早期の酸素吸入も有効である。酸素飽和度が90%を超える程度の流量を10分程度吸入することからはじめる。酸素吸入を止めるとまた元に戻るようであれば、吸入時間を少しずつ延ばしていく。これによって低酸素によって脳に溜まった有害な代謝物を排除し、初期の呼吸抑制が改善される可能性がある。 トレッキングや登山での飲酒が楽しみな方も多いが、アルコールやその中間代謝産物たるアセトアルデヒドは脳細胞の酸素取り込み機能を妨害するとか。馴化するまで控えた方が無難だ。喫煙は論外。

■高山病を早期発見 パルスオキシメーターの活用
 動脈血の酸素飽和度を計測するパルスオキシメーターを使い始めたのは15年も前のことだが、高所トレッキング、登山で高度馴化の度合いを見るために利用したのは世界でも私たちが最初ではないだろうか。当初は弁当箱のサイズであったが今やマッチ箱のサイズまでになってしまった。値段も何十万円もしていたのが安いものでは5万円を切る程度まで下がった。もはや個人装備の1つとなったともいえる。馴化の度合いだけでなく、高地肺水腫などの早期発見にも威力を発揮する。聴診器の方が有用だという意見もあるらしいが、私たちの経験からでは初期の高地肺水腫は、素人には聴診器での発見は無理で、パルスオキシメーターなら簡単に見つけることができる。高所トレッキング、登山の必携品である。
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